ゾッとしない人肌の怪談、あるいは不思議話をさせてください。
数年前の話です。
「幽霊見たことある?」
何気なく夫に訊ねると、仕事帰りに真夜中の車道に正座するお婆さんを見たことがあるそう。
危ない!!混乱しつつも必死で避けて、そのまま帰宅したと言います。
「それって、迷子のお婆さんだったんじゃない? いったん停車しなかったの?」
「いや、そのまま進んだよ」
「呆(ぼ)けてたとか……」
「いや違う!あれは絶対に違った、だから停車しなかったの」
妙に断固とした夫の口調からは、語らずとも異様な夜の空気が伝わってきました。
それにしても「車道に正座するお婆さん」ってシュール。
数日後、天気がいいのでウォーキングがてら近所のコンビニへ向かっていると、前方の車道に何かが放置されていました。
見通しのいい道路に大きなごみ袋?崩れた段ボール箱?ちょうど小学校低学年くらいの人間が丸まっているような。
丸まっているのです、背中が。お婆さんだから。
車道にお婆さんが正座をしています。
トートバッグから、巾着袋・スーパーの袋・紙袋を取り出して、目の前に並べるという作業中。まるでホームレスが自分のテリトリーを作るみたいに。
そういえば髪の毛がボサボサだし、もしかしてホームレス?と一瞬思いましたが、ここは新興住宅地。バス停も地下鉄の駅もずっと遠い。
直立不動で放心状態の私の目前に、いきなり緑色の何かが現れました。
左から横切って右へ走っていったのは佐川急便の車で、もう一度前方へ顔を向けると、明るく見通しのいい道路が見えました。日なたの道路だけが。
次はイオンの帰り道です。
近道の遊歩道に入ると、ベンチの横にお婆さんが正座していました。
やはり自分の周りに袋状の荷物をいそいそと並べています。
ものっすごい近い、ドキドキする、あと数十歩でお婆さんの間近です。
不意に後ろから「大丈夫ですかー?」と女性の声がして、私を追い抜きお婆さんのもとへ駆け寄っていきました。
ああそうか、うわあ恥ずかしい。
私もまずは「大丈夫ですか?」「どうしました?」って声をかけるべきだったのに!
バツが悪いような気持ちで、女性とお婆さんの横を足早に通り過ぎ……
いや、でも少しだけ顔とか見ておきたいな。
振り返ると日の当たるベンチだけがありました。
このお婆さんの幻(?)を、私はさまざまなシチュエーションで毎年2回は見ております。
ゾッとしなくて、人肌くらいの「そこはかなとない不安」で済んでいるのは、お婆さんが現れるのが昼間の時間帯だからでしょう。それも野外で日なたです。
だけど、消えちゃうんですよね。何なんでしょう。
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